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冠婚葬祭のお祝い、お見舞い、お弔いなどのとき、わたくしたちは、現金や品物に託して自分たちの気持を相手に伝えます。そのとき、のし袋などに「贈る意味」と「贈る人の名前」を正しく表書きしなければなりません。
冠婚葬祭の表書きは、わたくしたちの生活の中で、毛筆を使うもっとも身近な例といえましよう。「書は心の鏡」といいますが、心をこめて書かれた表書きには、贈る人の真心が表現されるといっても過言ではありません。真心をそこに託す気持で、ていねいに、読みやすく、わかりやすく書くことがなによりも大切なのです。美しい人間関係を保ち、より良い社会生活を営むための一助として、折にふれ、毛筆をとり正しい書き方を身につけられることをおすすめいたします。
本書は冠婚葬祭に必要なほとんどすべての表書きを、系統的に編成し、楷書、行書二書体で手本を書きました。正しく、しっかりと書かれております。またいざという時恥をかかずに行動出来るように、マナー、贈り物などの知識についての解説を加えました。
日々修練にはげまれる書学者も是非身につけておきたい書式といえましょう。
(本体1,200円)
◇水引きの上部中央に、贈る意味を具体的に書く
品物でも現金でも、贈り物には必ず何のために贈るのかその意味をはっきりさせる必要がある。それが表書きである。
もっとも多く使われるのが「御祝」「御礼」「御中元」「御歳暮」などであるが、これらはすべて水引きの上部中央に書く。贈る意味は、なるべく具体的に書いた方が、よりこちらの気持ちが伝わる。例えば「御祝」ではなく「祝御栄転」という具合いにである。
◇名前はフルネーム
贈る側の名前はフルネームで、水引きの下部中央、ちょうど「御礼」などの下に書く。ただし、連名の場合は、目上、目下の順序に気をつけなければならない。これには二通りあって、一つは宛名を入れる場合で、このときは、宛名の下、つまり一番左側に目上の人の姓名を書く。
もう一つは宛名のない場合であるが、このときは一番右側に目上の人の姓名を書く。
姓名を書く代わりに名刺を貼る場合は、中央よりやや左寄りに貼るが、これはあくまで略式であるということを覚えておいてほしい。グループのときは、「有志一同」「○○有志」とするが、必ず全員の姓名を列記した別紙を中に入れるようにした方がよい。
◇金額によって袋を使い分ける
お祝やお礼などの気持を現金にかえて贈るとき、その金額に見合った袋を使用することが大切である。だいたいの標準からいうと、つぎのようになる。
五千円以下の場合は、水引き、のしともに印刷されたごく簡単なものでよい。一万円以上では、のしは印刷されていてもよいが、水引きだけはきちんとかかっていた方がよい。五万円以上になると、のし、水引きともに多少豪華な感じのものの方が似合う。
このほか、気軽な心づけ、チップ、月謝といった場合には、水引きが省略され、のしだけが印刷された小型の袋とか、真白な角封筒などを使ってもよい。
◇弔事、仏事には、のしはつけない
弔事や仏事に用いる袋に、のしはつけない。なぜなら、のしというのは。「あわびのし」の略で、生ぐさいものだからである。昔は、贈り物にはすべて海産物を使い、中でも蒸したあわびは最高とされていた。その習慣が今なお、この。「のし」に引き継がれているのである。
したがって、香典はもちろん、お返し、御礼、また、寺社、教会関係への心づけにも、のしのついていない袋を使う。
◇″結びきり″と″蝶結び″の使い分け
結び目にはその人の魂がこめられている、というのが昔から続く日本人の考え方である。したがって、水引きの結び方にも、れっきとした意味があるのである。
水引きの結びには、二種類ある。。「結びきり」と「蝶結び」である。結婚、弔事用は結びきりに結ぶ。結びきりにすると両端を引っぱってもほどけない。だから、人生にただ一度だけのことに使うのである。一方、蝶結びの方は両端を引っぱると、すぐにほどけてしまう。だから、何度あっても喜ばしい一般の喜びごとに使うのである。
同じ祝い事でも、結婚祝い用と一般の祝い事用では、この水引きの結び方が違っていることに注意したい。
◇用途によって色も違ってくる
水引きの色は、紅白と白黒が基本である。紅白は結婚、一般的な慶事用。白黒は弔事用である。この基本色に、金銀、黄色なども加えられているが、金銀は慶事に、黄色は弔事用である。
いずれも、水引きは五本一組になっており、結んだとき、濃い色が必ず向かって右側にくる。